参加者は石川五右衛門?

長年、武術をやっていると、会社同様、流派どうしの付き合いというものが生まれてきます。自流の演武に参加していただいたら、他流の演武にも顔を出すわけです。たいていは数十人規模ですから、毎年、参加していても名前を知らない先生方が、数多く存在します。

「このあいだの〇〇流の演武会さ、石川五右衛門が来ていたぜ」
「はい?」
「ルパン三世の石川五右衛門だよ」
わたしは、つと、身を乗り出した。
「……どこが、どんなふうに石川五右衛門だったんです?」
「その先生、顔の前で納刀(のうとう)するんだよ」
言って、兄弟子はおなじゼスチャーをしてみせた。表情まで作ったつもりのようだが、論外だ。
納刀とは、文字通り、形が終って最後に刀を鞘(さや)に納めることを言う。
「だから、俺、納刀の時、かわりに言ってやったんだよ」
まさかとは思うが……。
「また、つまらぬものを斬ってしまった……」
わたしは、頭を抱えた。
「周りの先生方の肩、揺れてたぜ」
笑いとってどうすんだ!
「……で、何歳ぐらいだったんです? その先生」
「おまえさ、石川五右衛門のトシわかる?」
「ええと……、三十代……いや、四十代。……まさか、二十代じゃないですよね」
「わからないだろ?」
「ええ」
「だから、石川五右衛門なんだよ」
「………」
「今度、まじめに聞いてみるかな。本当は、石川五右衛門、意識してるでしょ、って」

兄弟子がつけたあだ名は、数多くある。スピルバーグ、シュワちゃん、ラッセルクロウ、キリギリス、ドラエモン……、あげたらきりがないほどだ。そして、一度ついたあだ名は、名前がわかった後も変わることはない。

2009.04.22 kamisaka

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